2015/01/22

 死にたくないから病院に行った。数ヶ月前に入院したから、その後の経過観察ってやつだな。出来るだけ朝の早い時間に受付を済ませてさっさと会社に行こうと思っていたから、病院が開く数十分前には入り口に到着していたんだけど、なぜか既に爺さんと婆さんがドアの前で列を成してるのな。オープン待ち。


 


 もう俺、上のようなポーズで固まったまんま過呼吸起こしそうになったわ。

 朝9時だぞ朝の9時。夜の9時でもおかしいだろこの行列。目の前の老婆2人組が「今朝は冷えるねー」とか言い合ってる。冷えるぞ。1月は冷えるぞ。当たり前だろ。お前は過去に何十回の1月を過ごしてきたんだよ。
 冷える故におかしいんだよこの行列。まさか俺と同じ思惑で並んでるわけじゃねぇだろ? 言っちゃ失礼だが現役を引退されたような年代の方々ばっかりなんだから。会社に早く行かなくちゃいけないから早起きして病院に行く、という理由ではないはずだろ。

 そして病院が開く時間になって、自動ドアが開いた瞬間爺さん婆さんは受付に並ぼうとし始めるわけですわ。腰が90度曲がった老人が俺よりも早く動く様子は、見方を変えれば都市伝説に出来そうなぐらいの恐怖を感じたけど、負けずに受付へと向かう俺。そしてその直後、爺さんと婆さん達の思惑がようやく理解できる光景を目の当たりにした。

 奴らは早く診察を済ませたいんじゃない。早く病院に入りたかっただけだったんだ。見てごらん。受付を早々と終えた老人たちの、待合席に座り、談笑している老婆たちの姿を。これでもかってばかりにリラックスした体勢でテレビを凝視している老爺たちの姿を。
 つまりは病院という清潔感のある建物の中で、持て余した時間を人との交流やテレビなどで潰したかったに他ならなく、つまりはそれが彼ら彼女らの日常だったのだ。若者が朝起きてTwitter画面を開くのと同じ心理であろうことを俺は想像する。

 「なるほど。たまに診察が終わっても帰らない老人がいたけど、そういうことだったのか」

 俺は納得し、病院の受付の前に立つ。

 「あ、白石さん。保険証出して下さい」
 「え?」
 「今月最初の診断ですから、保険証が必要ですよ」